『トクベツ』 (史緒×一臣)

――― 今日のわたしは忙しい。
ゆったりと雲が流れ、うららかな陽がさす秋の午後。例のお抱えシェフがいない日曜日。
大きな机の上に散らばる、かつて原稿用紙と呼ばれし紙くずを片手で押しのける。
艶を帯びたオーク材の覗いた隙間に乗せるのはティーカップを2つと、皿を埋め尽くすように並んだ
スコーンならぬヤキソバロール。
原稿用紙から離れた兄ちゃんのまなざしが途端に柔らかくなる。
「これは吉田さんじゃないね。史緒さんが作ってくれたの?」
「そぉそ、今日お休みだからさ。トクベツ」
「おいしそうだね。この仕事してると曜日の感覚が無くて。…せっかくだから、史緒さんも一緒に…」
一口サイズにカットされたロールパンを見て兄ちゃんは言うんだけど。
「うんにゃ……いい」
ハッタリかましてにっこり笑顔。
特別な日曜日。無論、このあとのたくらみはおくびにも出さないのさ。
―――ドクン、そのとき心臓が音を立てた。"落ち着け"自分に言い聞かせながら、
極上のクイーンメリーをすすってまずは一呼吸。こっちがドキドキしてどーすんだよ。

その間にも内容物とはまるで似わつかしくない流麗な絵皿の柄が、パンをつまむ兄ちゃんの指先によって、
ひとつひとつパズルのようにつなぎ合わされていく。
 もうすぐ、もうすぐ。
今、何を喋ってるかなんてまるで頭に入っちゃこない。
いつの間にかリズムを打ち始めた心音が加速度的に速くなる。
それにしても兄ちゃんが食うと、不思議ともぎゅ、って音はしないな。……なんでだ?
…いかんいかん、こんなこと考えてる場合じゃない。
そのときに向けて密かに高鳴っていく鼓動。はやる気持ちを押しとどめながら、
一歩づつ距離を縮めていく。動き続ける指先から目が離せない。
 あぁ、もう、あとちょっと。
そして最後の一片ははめ込まれた。
 きた―――!!
由緒正しき大英帝国の紋章と黄金のグリフィンが淡いセージグリーンの中に、
くっきりと浮かび上がった瞬間 ――― 出口を塞がれた鼓動が一気にはちきれた。
ええい、大丈夫!聞こえてるわけじゃない。

「あのな……兄ちゃん」
その目をまっすぐみつめる。
「どうか…しましたか?史緒さん」
他愛無い会話の後不意打ち。……のつもりが目を反らされることすら無くて、
逆に兄ちゃんの微笑みに捉えられてしまいそうになる。ちぇ、余裕かよ。
跪き、そっと手で触れて気持ちを伝える。
いまのわたしと、これからわたしがしようとしていることを。
拒まないでくれるよな?
ちろり、上目遣いに探りを入れる。なのに視界は強い逆光に遮られてしまった。
「………」
無言は肯定の言葉 ――― たぶん。
小さな音を立て、前合わせを開いていく。導き出しててのひらで包み込み、
柔らかく摺りあげる。そう、小さくて愛おしいものを抱きしめるみたいに。
よしよし。
先を軽く撫でるとピクン、と小さくうなづいた。
へへっ、この瞬間の兄ちゃんはこんなにもかわいい。
「ちょっ…史…緒さん…」
兄ちゃんの声音から感じ取れる少しばかりの困惑と、そして高揚。
照れくさそうにしてるそれをしげしげとみつめる。……不思議なカタチ。
どーするのが一番いいんだろ?よく分からんけど、まぁなんとかなるだろ。
ちゅっ。
そっと先にキスをして、そのまま根元へと唇を滑らせる。
そして、瞬く間に意識が集中したその強張りを静かに口に含んだ。





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