「つ……疲れた……」
部屋に入るなり一目散にベッドルームへと直行してベッドに倒れ込んだ菜苗の第一声に、都築は苦笑した。
今日は、高校を卒業して間もない菜苗さんが都築さんちに嫁に行った記念日。
都内で賑々しく式を挙げ、披露宴も何もかも総てを済ませてやっとホテルの部屋のドアを開けたのは夜も更けてのことだった。
「冠婚葬祭は疲れるものと相場が決まってますから。当事者ともなると尚更だ。
……お疲れ様でしたね、菜苗さん」
後からスイートルームへ入ってきた都築は上着を脱いでリビングのソファに掛け、ベッドルームへと進む。
新妻が行き倒れているベッドの縁に腰を下ろすと手を伸ばして頭をぽんぽんと撫でた。
菜苗は撫でられた頭を少しだけ持ち上げて頬杖をつき都築を見上げるとしみじみと溜息を吐き出した。
「やっぱしアレだよなー、社長さんともなると、あんなに派手派手しい披露宴になっちゃうもんなんだね。
……貴さんて、やっぱし社長さんだったんだなーって、つくづく思っちゃったよ」
「これでも菜苗さんのリクエストを受けてシンプルにしたつもりなんですけれどねぇ。
こちとらバツイチおじさんの子連れ再婚だし……。
どうも、うちの首脳陣は秋月さんちとタイアップしたことを対外的にも知らしめないと――なんて考えてるらしくて、
あれ以上は引いて貰えなかったんです。菜苗さんには関係ないのにね。その点に関しては申し訳ないと思ってる」
都築から謝罪の言葉が漏れて、菜苗はがばりと起き上がった。
「え、や……、違うよ貴さん、私は不平不満を言ってる訳じゃなくて」
都築に謝って欲しい訳ではなかった。
それなのに、どう言ったらいいのか判らなくて、言語中枢をひっくり返してもうまい言い方が出てこない。
ああ、どうして私の日本語表現はよくよくつまずいてしまうのだろう。
そんなつもりじゃ、ないのに。

都築は口ごもる菜苗をあやすように、
「判ってます」
そうやって、またぽんぽんとされてしまう。
撫でられた頭に手を遣りながら、菜苗はぽつりと呟いた。
「……うん、楽しかったよ、結婚式。
一世一代の晴れ姿を父さんと兄さんと――精さんに見せてあげられなかったのだけは、残念だけど」
「ちゃんと、七実とお母さんと四人で記念写真撮ったでしょう? 
あれを菜苗さんちの仏壇に供えておけば、お父さんもお兄さんも……精さんだってちゃんと見てくれますよ。
精さんは百年も菜苗さんちにいたんだから大丈夫。ご先祖様とも顔見知りでしょ」
ぽんぽんぽん。
「うん、そだねー。……ありがとう、貴さん」
彼らにお披露目する純白のウェディングドレスは七実と二人と選んだものだった。
「父しゃんはこーゆーの好きだよ菜苗しゃん」と知った風な口を聞くのが相変わらず微笑ましいな、と思った。
そんな七実は今日、菜苗の母親と都築の家にいる。新婚さんは――こっち。
「七実ちゃんには悪いことしちゃったかな」
くすりと笑って菜苗は部屋を見回した。改めて見てみると、今まで見たこともないくらい、豪華な部屋。
ホテルに泊まること自体がそうそうあることではないのに、スイートルームなんか初めてだった。
ホテルの部屋がいくつも分かれているだけでも贅沢だと思う。
晴れて親子になった七実が一緒なら、二人でさぞかし大騒ぎしていたことだろう。
「明日から七実は毎日一緒なんだから、いいの」
明日からまたワイナリーの仕事が始まる。菜苗たちはすぐに甲州で葡萄作りの日々なのだ。
そして都築は都内へと単身赴任の身となってしまう。
新婚旅行だって、菜苗が希望したフランスへ行くと決まったものの仕事とワイナリーの都合ですぐに出発する訳ではない。
晴れて結婚したとは言え、圧倒的に二人の時間が少ない、のだ。
「で。菜苗さん。どーしてそんなに端っこに寄ってるの。もっとこっちにいらっしゃい」
「いや、あの、えーと……」
ホテルの部屋を改めて認識した途端、部屋に二人っきりだという事態がやけに現実的に思えてしまった菜苗の無意識な行動だ。
この大きなベッドだって、よーく見ればひとつっきりなのだ。
と、言うことは。
でも、あの、一応新婚夫婦なんだし…・・・な。うん。

「変なことはしないから。終いには落っこちちゃいますよ」
おいでおいでと手招きされて、菜苗はごちゃごちゃと考えていたのを止めて、じりじりと近寄った。
じりじり、じりじり。
ようやっと都築の手の届く範囲内にまで到達したところで抱き寄せられて、菜苗は心臓が飛び出そうなくらい、びっくりした。
「わ……っ、ちょ、貴さん、変なことしないって言ったのに! 嘘つきー!」
「変なことなんてしてませんよ」
丁度都築の胸板の辺りに顔を埋めている菜苗には、聞き慣れた都築の声がいつもと違った風に聞こえる。
都築が喋ると、あたたかい胸板の奥に僅かな振動を感じるのはちょっとした発見だった。
しかしそれよりも今は、この状況が一大事だ。
「だって、だって……」
「新婚さんな私たちには、至極当然だと思うけど?」
「だってだってだって……」
「まぁ、私のトシ考えりゃあちょっぴり犯罪ちっくに見えないこともないけど。おじさんだし。子持ちだし」
「……それは、関係ないよ」
動揺していた筈の菜苗の、そこだけははっきりした返答に、都築は菜苗をじっと見詰めた。
「そう?」
「七実ちゃんがいなかったら、私はこうして貴さんと結婚してないかも知れないのに」
あらら。
「うん、それはそうかも知れない」
都築は苦笑してみせる。
あ、違う。また日本語間違えた。
そうじゃないんだ。精さんの正体にびびってたりするのも、
洋酒メーカーの社長のくせに酒が弱くて桜貝になっちゃうのも、
でも頑張りすぎるくらい頑張り屋さんで、それで奥さんに逃げられちゃったりしたけど、
七実ちゃんにはちょっと厳しいけどいいお父さんなのも、
何だかんだで私には優しくしてくれるのも、
全部全部ひっくるめて私は。

「……いや、あの、七実ちゃんもそうだけど、七実ちゃんだけが理由じゃないし、
それに、別に貴さんはそんなにおじさんじゃないからだいじょ……うわ」
更にきつく抱き締められて、菜苗はまた変な声を出した。
「……かわいいなぁ、菜苗ちゃんは」
何が起こったんだ、と菜苗はパニック状態に陥った。
「な、菜苗ちゃんて、何ですか貴さん。それにかわいいだなんて、今まで一言も……」
「ずっと、かわいいと思ってましたよ。言いませんでしたか?」
「は、初耳だ……っ」
目の前で恥ずかしいセリフを吐かれてしまったものだから、菜苗は都築の顔をまともに見ることが出来ない。
不自然なくらい思いっきりそらした顔が耳まで真っ赤になっている。
「菜苗ちゃんは、かわいいですよ。普段はしっかり者で働き者だけど、ちゃんとかわいい」
間接照明の明かりを受けて、連日の作業で健康的に日に焼けた首筋があらわになる。都築は自然とそこへ唇を落とした。
「ひゃう……っ、ちょ、何す……」
何度かついばむように口付けてから、都築は顔を上げた。
「失礼。順番を間違えました」
色づいた果実のように赤い菜苗の顎をとらえ、都築は何か言おうとする口を塞ぐ。
唇を離すと菜苗は潤んだ目をして、呼吸を荒げていた。
「貴……英さんちょっと待って……、何か、慣れてない?」
「……そりゃあおじさんだからねぇ。七実とゆー実績だってあるし」
「判ってるけど、でもっ」
「おじさんは菜苗ちゃんの反応が楽しくて仕方がない。……いつもはいばりんぼなのに」
「それは、だって……」
「菜苗ちゃん。そんなかわいいことばっか言ってると、おじさんはやっぱり犯罪かなぁ、って気になっちゃいますよ」
片手でネクタイを緩めた都築が菜苗の頬を撫でると、びくりとしてしまう。
その反応に苦笑して、都築は菜苗の額にキスをひとつ落としてからゆっくりと押し倒した。

「た、かさ……」
「はい?」
律儀に返事を寄越して、都築は丁寧に口付けた。
「ふ、ぁ……」
舌先で唇を割り、不慣れな菜苗のそれに絡ませて吸い上げる。
キスをしながら、右手を菜苗のシャツの裾の中へ滑り込ませた。
なめらかな曲線をそっとなぞりながら、ブラジャーに触れてその上からそっと押し上げる。
「ん……っ」
ストラップを肩から外し、ブラを押し下げて直接肌に触れると、菜苗の速い鼓動が手に取るように判った。
「菜苗さん……すごく、どきどきしてる?」
「してる」
「かわい」
菜苗は菜苗で、何から何までが初めてでどうしたらいいのか判らない。
都築が触れるところがくすぐったい。
触られるのは恥ずかしくて口をついて出てくるのは拒絶の言葉ばかりだけれど、本当は嫌じゃない。
もう本当にどうしたらいいのか判らなくて都築のなすがままだ。
やわやわと胸を揉んでいた都築が、思い出したようにシャツを脱がせ、ブラジャーを外す。
「やだ、恥ずかし……っ」
「今からそんなこと言っててどうすんの」
訳の判らないことを言って、スカートまで脱がしてしまった。ちょっと迷ってから、ストッキングもそろそろと脱がせていく。
「前々から思ってたんだけど、ストッキングって、何でこんなに破れやすいもの履くんだろうね? 脱がせるのもどきどきする」
「そんなの知らないよぅ」
「――よし、成功成功」
どうやら、伝線させずに脱がせることに成功したらしい。嬉しそうに報告する都築が何だかおかしかった。
そのまま、内腿に唇を這わされるまでは。
「……!」
声にならない声を上げる菜苗に構わず、都築はひとしきり脚を愛撫すると半身を起こしてネクタイを解き、
カッターの前をはだけた。
胸元を手で隠していた菜苗に目を留めると、両の手首を掴んでバンザイさせる。
「何隠してるの」
「だって恥ずかしいじゃないか……」

ふふ、と低く笑って、都築は先程からの刺激で硬くなり始めた先端の片方に舌を滑らせた。
「あっ、あん……」
わざと舌を出し音を立てて転がす様を見せ付けると、菜苗は息を飲み込んだようだった。
手首を押さえていた手を離し、そんなに大きくはない胸をこねてその感触を楽しむ。
弾力のある若い素肌が指先を愉しませる。
そのうち、片方の手が下方へと移動し、唯一残されていた下着にかかった。
布の上からそっと割れ目をなぞると、しっとりと湿っているのが判る。
不安げに見下ろす菜苗をちらりと見遣り、内側へと手のひらを差し入れる。
「やだ、ダメ、貴さ……」
「どうして……?」
くちゅりと音をさせて指を埋めたそこは思っていたよりも潤んでいて、滑らかすぎる程都築を迎え入れた。
(でも、まだ……かな)
男性を受け入れたことのない身体に無理強いは出来ない。都築は辛抱強く菜苗の身体を慣らしていくことにした。
胸元から首筋へと、キスの雨を降らせながら都築は知らず知らずのうちに出し入れする指を増やして菜苗をより刺激する。
「んっ、あ、あっ」
動きに合わせて甘い息を吐き出す菜苗の表情は今まで見たこともないくらい艶を含んでいて、それだけでも都築を昂らせる。
ややもすれば膝を閉じようとするので、自分の脚を割り入れて大きく開かせる。
そんな体勢が余計に彼女を刺激しているのかも知れない。
少し指をずらし、その先にある突起を刺激すると菜苗が弾かれたように声を上げた。
「やっ、ああっ」
手を伸ばして都築の腕を掴み、身体から追い出そうとする。
「どうしたの、急に」
そう言いながら、都築の手は止まらない。
「や……わかんないけど、んっ……」
鼻にかかった甘い声で言い返すのすら愛しくて、却って都築に火をつけてしまう。
深いキスを繰り返しながら指の動きを更に加速させると、菜苗はばたばたとのたうった。
少し浮いた腰が揺れているのは嫌がっているのか――それとも、誘っているのか。
「あ、あ、あ……!」
一際高い声を放った菜苗から指を引き抜くと、都築は最前から我慢の限界だった己をあてがった。

ぬるぬるとした入り口を数度往復しただけで菜苗の嬌声が零れる。ゆっくりと侵入すると、ごくりと菜苗が息を詰めた。
「貴さん……」
「菜苗さん、いい?」
僅かな逡巡の後頷いた菜苗に優しくキスをして、都築は一気に貫いた。
「ん……あああっ」
「痛いでしょ、ごめんね」
そのままの状態で身動きせず、都築はよしよしと菜苗の頭を撫でる。
暫く荒い息を繰り返していた菜苗が、落ち着いたのか大きな息をひとつ。
「はぁ……ん、貴さん……おなかが変な感じ……」
涙が溜まった目で見上げられるとどうしようもなくなってしまう。
「もう……、ほんとにかわいい」
涙を拭ったそばからもっと泣かせたくなってしまう、くらいに。
「ぎゅっとしてて。声は、我慢しないでね」
そう言い聞かせると、都築は腰を使い始めた。ゆっくりと、次第に緩急をつけながら。
「ふぁ、あああんっ、貴さ……っ」
都築の身体にすがりついてくる菜苗は、その一方で都築自身をきついくらいに締め付ける。
「菜苗ちゃん……、痛くない? 大丈夫?」
「い、たい……けど……、んっ」
「――まだ、そんなに痛いなら止める、けど……」
自分のしていることが、彼女にどれだけの負担を与えているのか。
苦しげに寄せられた眉根と、吐き出される乱れた声でしか判らない。
もし彼女を身体だけでなく心まで傷つけてしまったら――都築は、やはりそれだけが怖かった。

――が、返ってきた答えは都築の迷いを一気に断ち切った。
「いやっ」
「菜苗ちゃん?」
思わず聞き返してしまう自分がちょっと間抜けだと思いながら、都築は菜苗を見遣った。
視線に気づいた菜苗も、ぎくりとしたように、
「あ……あの、えっと……、止めなくて、いい……から。痛い、のは、もう……我慢出来るから……あっ」
途中でびくりと身体が跳ねた。
「気持ちよくなりそ?」
「……それは、ずっとなってるよ……」
おずおずと口にされたその答えに、かろうじて残されていた都築の理性が融けて、しまった。
もう、止められない。止めたく……ない。
「菜苗ちゃん、それは反則……」
困ったこどもを見るような目で菜苗を見たかと思うと、動きが性急になった。
「ひゃんっ、あ、ああ、ぁ……っ」
「うわ、やば……っ」
身体の奥から起きた、びくびくとした震えが都築を絡め取る。
都築は腰を押し付けるようにして、堪えきれなくなったものを放った。

……余韻を愉しんでいた都築は、菜苗の呼吸がすっかり落ち着いたのを確かめてからそっと自身を引き抜こうとした。
そのとき、ずくんっ、と菜苗が急に収縮した。
きっと無意識のなせる技なのだろうとは思うけれど、引き止められているのかな、
なんて都合のいい解釈をしてしまうのが男の悲しいサガだ。
「菜、苗さん……」
「へ、……えっ?」
半分何処かへ行きそうになっていた菜苗は、急に声を掛けられてうろたえる。
「んにゃ、何でもないですよ」
ぽんぽんと頭を撫でて、都築はやっぱりな、と苦笑する。
ずる……と今度こそ退出すると、菜苗がぎゅっと目を閉じたのが見えた。
「はぅぅ……」
そろりと頬に触れる。汗も引いているようだ。――もっとも、より汗をかいたのは都築の方だったのだが。
「辛かったでしょう? ごめんね」
「んにゃ、大丈夫。貴さん、優しかったから……」
へらりと笑ってみせる菜苗を、腕枕をしている方の腕で自分の方へと引き寄せた。
「でも、ちょいとおじさんは自分でもびっくりするくらい我慢がきかなくなって大変でしたよ」
「あはははははははは。我慢、しなくていーよ。私が相手で良かったら」
「あのね。そーゆー自分を卑下するよーな言い方しちゃ駄目ですよお嬢さん」
顔にかかった長い髪をかきあげながら、都築は菜苗の耳朶を甘噛みするように囁いた。
「自分で選んだお嫁さんに、自信持たなくてどうしますよ」
今度こそ、自分で選んだこの手は、何があっても離さないと決めたのだから。





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