おじさんの今の脈拍は、慌しいのだろうか?今のわたしのように。
思えば誰かに抱きしめられた記憶なんてなかった。二親は物心がつく前に亡くなってたし、育
ててくれたおばあちゃんは抱っこよりおんぶ派で、おぶい紐で背中にきっちり背負われて、そ
れも本当にちっちゃかった頃の思い出でしかなくて。  
わー。極々当たり前のことではあるけれど、おじさんの胸、わたしのそれとは違ってなんだか
凄く男の人なんだなあと思ってしまう。脂肪の含有率の差かどうか知らないけれど、男の人っ
て案外固い。  
そんでもって何故か安心してしまう。身を凭せかけたくなる。あったかい。  
どうしよう。これは凄くクセになってしまうような、気がする。  
見たいなあ、おじさんの顔。どんな顔しているんだろう。  
こっちが仕掛けて始めたことなのに、おじさんに先を越されてばかりでは癪に障る。ということ
でわたしはおじさんのシャツに手を伸ばした。・・・それにしても自分のなら楽なのに他人の服
のボタンを外すという作業はどうしてこう難しいんだろうか。ついでに、いつもよりわたしの指先
が利かないような。もどかしいのか、恥ずかしいのか。  
上手くできないわたしの気配を察してか、おじさんは自分でボタンをはずし始めた。余計な真
似を。  
そうやっておじさんは自分の分のシャツを脱いでしまって、脱いだシャツをどうしようかとちょっ
と思案顔になってベッド脇の椅子に手を伸ばしてその背に掛けた。  
その挙動でいやおうなく目に入ってくる男の人の体、という奴に、あたしの頬が自然と熱を持っ
て赤らんでいくのが分かる。
「七緒さんの頬、真っ赤ですよ」  
そりゃあもう赤いりんごに唇寄せて・・・って、頭で諳んじている場合ではなく。う、わ、うわわ、
わ!ほほほ本当に唇をっ、わー!!ぅゎー・・・。  
絶句。  
き、キスを、してしまった・・・!!おじさんに度々不意打ちを食らわされてはわたしの気は動転
する。どうしたことだ、常時のわたしは何処をほっつき歩いているんだ、静まれ脈拍体温上昇。
しかも思えばファーストキスという奴ではなかったかしら、これは。  
今夜は色んな初体験を一気に済ませてしまうことになるんだなあ。しみじみ。  
・・・している場合か?

計画の初段階に躓きがあったのだろうか。  
酷く混乱する。冷静なままで居られない。やたら、そう、ドキドキする。  
シェイクスピアの劇に出てくる恋に落ちた乙女みたいに。そういえば彼女はたったの14歳だっ
た。
早熟な、風のように駆け抜けていった恋。僅か五日。  
死という幕引きで終わりを告げてしまったけれど。
「おじさん、正和さん」
「はい、なんですか七緒さん」  
律儀に名前を呼んでくれる。
「あたし、おじさんのこと大好きなようなんですが」  
あ、おじさんが固まってしまった。
「だいじょーぶですか?」  
コンコンとノック、ではなく頬をぺちぺちしてあげたら、おじさんはやっと正気に返った。
「・・・はっ、あ、ああ、はい平気です、あっ、いややっぱりあんまり平気じゃないかも・・・」  
もごもごと口篭るおじさんの顔が真っ赤だ、さっきのあたしみたいに。
「し、心臓に悪い」  
どういう意味だそれは。
「・・・僕も・・・七緒さんのことが好きですよ、とても」
「ああ、それは良かった」  
あたしはにっこり笑った。
「じゃあ、二人して楽しく長生きして共白髪になろうね」  
花のように散る美しい恋人たちでなくて良いから。  
肉親との縁が薄くて、でもたった一人温かく包んでくれたおばあちゃんのお陰で充分心は満ち
足りて、でも結局天涯孤独になってしまって途方にくれてたところを救って貰った。  
不器用で妙に世間ずれしてなくってすごく音痴で変なところ依怙地で優しくって。  
おじさん、もし貴方が居なくなっちゃったら、あたしは寂しさでどうにかなってしまうかも。  
ぎゅっとおじさんの胸に顔を埋めると、おずおずと強く抱き締めてくれた。

「あのね、たとえおじさんが持久力と体力に自信がなくても、わたしは全然構わないから」
「は、はは・・・」  
何せわたしには比較対象できる経験が一切無いことではあるし、志貴正和さんは御年三十四
才。
「・・・おじさん、って。初めてじゃ、ないんでしょ?」  
聞いた。聞いてやったぞ、とうとう。  
おじさんは最初目をぱちくりさせてから段々と台詞の意味を理解したらしく、赤くなってあたふた
して汗をかいて口ごもった。そんでもってあたしは意地悪くもそんな様子がちょっと面白いとか思
っちゃったりして。  
じーっと見つめる私に気圧されてか、顔を逸らしながらちっちゃな声で、
「・・・はい」  
えっ。
「ほ、ほんと?」  
いやおじさんの年齢で今までムニャムニャをしたことがないというのもアレだと思うけれど、その
口から直接聞くと理不尽以外のなにものでもないような気がしてくるから不思議だ。
「それは僕も馬齢を重ねていることですから、な、何度かの体験は経てはいますが」  
でもあんまり多くはなさそう。おっと失言、でもそっちのほうがわたしには嬉しい。
「お手柔らかにオネガイシマス」
「こ・・・こちらこそ」  
二人してみょうちきりんなやり取りをしてから、あたしは自分のパジャマのボタンを外した。  
ふわっと柔らかい素材で作られたパジャマはいかにも女の子の着る奴で、でもそれほど装飾過
多でもない。四つしかないボタンを外して前をはだけると、おじさんはなにやら目の遣りどころに
困っているようだった。
「ごめんねおじさん」
「え」
「男の人って、大きい胸が好きなんでしょ」
「な・・・七緒さん、一体どこでそういう話を」
「雑誌とテレビとラジオ番組」
「・・・・・・」  
おじさんは黙り込んでしまった。現代は情報社会、しかもどーでもいい話題ほど大衆は面白がっ
て受け入れるのですよ。特に乳がどうとかこうとか。おじさんは精々新聞くらい でしかメディアと
・・・というか、現世と繋がってないから、それも経済新聞が主だったりするから尚更免疫がない
んだろうけども、ね。

ところがわたしの予想に反し、おじさんがぼそぼそと、
「そんなこと、どうでもいいんです」  
そんなこととはまた豪儀な。そうかー、おじさんってばあんまり胸にこだわらないタイプですか。
「おじさんは、七緒さんだから、良いんです」  
・・・・・・今度はわたしが黙り込む番だった。  
これは・・・いわゆる殺し文句、というものではないだろうか・・・?  
わたしが散々真剣に悩んだことは、かなり下らないことに感じられるかもしれないが、ブラを着け
るかどうか、だった。どうせすぐ脱いでしまうんだろうし、と思えばパジャマだけで良さそうで、でも
やっぱり脱いだその時にまんまの素肌を晒してしまうのも恥ずかしく、結局選んだショーツと揃い
の二点セット。この日のために女性用下着売り場でうんうん唸って決めた逸品。あれやこれやと
とっかえひっかえしてはハンガーに掛けなおし、本当、あんなに逡巡して買い物をしたのはあれが
初めてだ。  
その苦吟の末に買い求めた薄桃色の花の刺繍が施されたブラに、おじさんの手がそっと触れた。
お世辞にも大したものじゃないわたしの胸を、それはそれは大切そうに、儚く消えてしまうんじゃな
いかと、ちょっとおっかなびっくりといった感じで触るので。  
ああ、わたしおじさんのことが好きでよかった。  
・・・なんて思ったりした。  
柔らかいベッドと私の背中との間におじさんの片手が潜り込んで、その意図を察して少しだけ体を
浮かす。  
ところが、
「あ、あれ?七緒さん、これ」
「前で外すタイプじゃないですよ」
「ですよね・・・あれ?」  
おじさん・・・どこまでも不器用な・・・。

ブラのホックを探り当てても、覚束ない手つきでもたつき、苦心するのが不憫で見ていられずに、わ
たしは自分でホックを外した。なんかもう殆ど自分で着ているものを脱いでるなあ。  
胸を締め付けるものがなくなって、僅かな開放感に浸る。  
その分自分の体を覆ってくれていたものがなくなって、 あられもない格好でいるのが流石に恥ずか
しい。救いなのは、部屋の光源がサイドテーブルの小さな明かり一つだけ、という点か。お陰で部
屋は大分薄暗い。  
でも、おじさんの目には、わたしはどう映ってるんだろう?  
いっそ真っ暗闇のほうが良かったかも。しまった、昨日のうちに電球を切れたのと交換しておけば
よかった。でもここで悔いても後の祭りだ。  
見上げると、すごく真面目な視線とぶつかった。
「・・・こういったとき、どう女性に言えばいいのか、全くの不得手なんですが」
「は、はあ」  
そりゃ得手じゃないだろうなあ。普段から国語能力に乏しいんだから、そんなおじさん想像つかん。
「綺麗ですよ、七緒さん」  
たとえ百万遍繰り返されてきた陳腐で月並みな台詞でも、そんな真面目な顔で、デスラー総統み
たいな渋い声で、そういうこと言うのは反則だ。そのせいで、わたしおじさんになんでもされたって
いいと思っちゃったじゃないか。いや今からされるんだけど。  
露わになっている胸に、おじさんの手が直接触れるのを、息を詰めてじっと見る。  
ついさっきブラの上から触れたよりもずっと慎重な手つきで、大きな掌で包むように。  
思わずため息が漏れた。そのため息に反応して、おじさんの手がびくっと動く。どうしてこうさっきっ
から、まるで立場が正反対じゃないか。
「も、もしかして痛かったですか?」
「ううん、平気。そうじゃなくって」  
おじさんの手があったかくって気持ちいい。  
素直にそういうと、おじさんは照れと安堵が複雑に入り混じったような顔をした。
「じゃあ先・・・進めますよ」
「はいどうぞ」  
いちいちこれからこうやって応答しながら進むんだろうか・・・?  
それはちょっと問題だなあと下らないことを考えていたわたしの頭が思考を途切れさせる。  
おじさんのあったかい掌が、ゆっくりと、少し冷えてしまった肌の上を撫でていく。  
その微細な動きに気を取られて、考えが纏まらない。  
大事に慈しむように触られて、なんだかむずむずとくすぐったいようなもどかしいような。  
決して全然、不快とかじゃない。不思議な気持ち。

優しく胸を撫でながら、もう片っ方のおじさんの手がわたしの背中に回されている。もうわたしの
全部その腕に凭れかけてしまいたい。  
そうこう思っていると、おじさんはふわふわした気分のわたしがビックリ仰天するような行動に出
た。唐突にわたしの首根っこの辺りに顔を埋めたのだ。
「わっ」  
慌てて叫んでしまった。するとおじさんは顔を上げて、不安そうにする・・・ので、大丈夫だと何度
も頷いてみせる。と、またしても思いもよらないことが。  
また、キスを。  
今度はさっき済ませた初めての奴よりも長かった。なので、わたしはこういう時の一般女性の作
法として目を閉じて、触れ合った唇の感触を確かめる。何でだろうか、体の一箇所がくっ付き合っ
ているだけの、ハリウッド映画の恋人たちのような大胆で情熱的なキスでもないのにやたらドキ
ドキする。そんなわたしの心拍数を更に跳ね上げるように、胸を触ったおじさんの手が、慎ましい
膨らみを撫で回し、ついに 先端の部分に掠めるように指先が触れた。思わず体が反応する。な、
なんだ?  
今までのふんわりとした感覚とは違った、異質の刺激だった。  
戸惑うわたしをそのままに、おじさんの唇は耳元から首筋へと移っていた。肌をくすぐり、まさぐる
感触と、撫でるのを止めて揉むような手つきに変わったことに、わたしは混乱する。お空を能天気
に漂っていた風船が、今やゴーカートに押し込まれて予想外のスピードにブンブン振り回されて
いるような。  
濡れた感触が肌を伝うに、わたしの体が再びビクっとした。
「おっ、おおおじさん!」  
堪らず声を上げる。 
「は、はい?」  
おじさんもまたビックリしている。いやそんな顔をするのはわたしの方ですって!
「いっ、今、なにしたの?」
「なにって・・・その・・・普通に・・・」  
語尾をちっちゃくさせながら、愛撫などを、と、仰られた。

「な・・・舐めなきゃ駄目?」  
ちょっとだけ時間の空白があってから、七緒さん・・・と、おじさんが言った。
「こういうとき、こういう風に触れ合うのは、好きな人相手ならば当たり前のことなんですよ」  
・・・そーなんですか?とてもとっても恥ずかしいのですが。
「それとも・・・」  
おじさんが言いよどむ。
「もし、僕にそうされるのがイヤだと七緒さんが言うのなら・・・」  
そんな顔して言わないでくれ!おじさんの申し訳なさそうな顔というのは、元が内に引きこもり
がちな人であるだけに本当に所在無げな途方に暮れた様子を漂わせ、お陰でこっちのほうが
居た堪れなくなる。  
そしてそれも全部わたしに対する気遣いであるだろうだけに、余計に、尚更。  
ええい、ままよっ!いい加減覚悟を決めろ!初心者だからって甘えるな!  
心の中で自分にぴしゃんと気合の平手を一発かます。
「・・・ヤじゃない」
「え?」
「ちょっと予想外の出来事に驚いただけだから!だから平気だと、思う、から」  
続きを。  
流石にそれは自分では言いあぐねて、縋るように見上げて、ただ一回こくりと頷いてみせる。  
おじさんはそれで全部を分かってくれたようで、落ち着かせるようにわたしの髪を撫でてから、
ちゅっと軽い音を立てて鎖骨の辺りにキスをした。うう、くすぐったい。恥ずかしいのがくすぐっ
たい。  
それと、わたしに覆いかぶさるような体勢でいるおじさんの体がわたしの裸の皮膚に触れて掠
めて妙にゾクっとする。わたしの体の脇、シーツの上に片腕をついて最小限しかわたしへ負担
をかけないようにしてくれているけど、それでも圧し掛かる重みがあって、それがまたいやに心
理面での圧迫感といいますかまざまざと存在を感じさせるといいますか。

これが男と女の生の触れ合いというものか。  
と、一人で絶賛緊張中のわたしをよそに、おじさんの唇が胸元の辺りをつぅっと下って。
「ひゃっ!」  
へ、変な声が出るのも当たり前だ!だって今おじさんってば・・・今!  
口に出すのも到底アレだが、何と言いますか、わたしの慎ましやかな膨らみと呼ぶのもおこが
ましいうちの片方の、その、あの。
「んっ!」  
もっかいおじさんの舌が擦るように舐めて、わたしは咄嗟に声ごと唇を噛んだ。  
体が、背中が震える。  
そんなわたしを宥めるように、おじさんの手がわたしの髪を梳き、指先が頬をくすぐった。  
体の一部が生温かい感触に包まれるという、味わったことのない刺激。微かに濡れた舌の音
も聞こえ、その響きにわたしの耳から爪先までがかあっと一気に熱を帯びた。  
もう頭の中は真っ白だ。反対に顔色のほうは茹蛸みたいになっているのに、胸から伝わる感覚
ばかりが鮮明で、それが自分でも訳の分からない感覚なものだから千々に乱れる感情を持て
余して心底イヤで恥ずかしさに消えたくなる。  
それなのにおじさんの手が優しくて、その手に頬擦りしたくなるのだ。  
鼻に掛かったような小さく甘えた声を必死になって押さえ込み、ただ与えられる全てを甘受する。
つい瞼をギュッと閉じてしまって、それがまた全身の触覚をかえって敏感なものにしているのに、
わたしを混乱の真っ只中に追い落としている舌先や肌を擦るおじさんの体のひとつひとつに過
剰なほど反応して、そんな些細なことにも気がつかないでいた。

やがておじさんの口がわたしの胸からやっと離れて、緊張と混乱から開放されたわたしは全身
からくったりと力が抜けたてしまった。  
テスト勉強を徹夜でこなしたときより重い疲労感。多分心身ともにあまりにも張り詰めてたせい
だろう。  
でもこれでやっと一息できるかも、と、思ったら、お腹の辺りを掌が滑るように撫でて、臍の横を
通って・・・パジャマの下に、掛かった。  
とうとうきたか。  
そりゃ一回ごとに休憩取るとか馬鹿なことするわけないもんな。  
これもさっきみたいにわたしが脱ぐべきかなとぼやけた頭で曖昧に思ってたら、
「七緒さん、少し腰を・・・浮かして下さい」  
穏やかなおじさんの声だった。  
も少し焦ってるんじゃないかとなんとなく思ってたのに、こっちの勝手な思い込みだったらしい。  
おじさんのくせに生意気な。  
勿論謂れのない謗りだ。大体これは自分から望んだことのくせに。  
でもインドア派で知的労働ばっかしかしないくせに、こんなところでとても男の人なんだと感じる
とは、なんだかとても理不尽に感じた。  
それは、未経験の行為に翻弄されて怯える自分に対する不甲斐なさが噛んだ部分もあって、
そんな自分をみっともなく曝け出していることの恥ずかしさも含んだんだろうけども。  
今の、色んな感情がぐっちゃぐちゃになってしまっていたわたしには、そんな正論は通用しない。
大人しくおじさんの言葉に従ってお尻をシーツから持ち上げようとして、いきなりガバっと相手の
不意を付いてわたしはおじさんに抱きついた。





(未完)



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